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10年以上にもわたり事実上メインストリームから遠のいていたジョニ・ミッチェルは、評論家や音楽ビジネス仲間からの遅すぎたが当然の賞賛をうけ、商業的影響力は別として、メディアでの存在感をほぼ回復した。最近になってグラミー賞を受賞、ビルボードから特別表彰を受けたということは、80年代にミッチェルは存在しなかったという事実を皮肉にも浮き彫りにすることにもなったのだが。1974年のアルバム『コート・アンド・スパーク』は最も豊潤で、共感しやすい作品であり、その大ヒットによってミッチェルはキャリアの頂点に達する。しかし、さまざまな影響を受け、多様化するにつれ、このカナダ出身のミュージシャン兼画家の作品は前ほどの注目を浴びなくなっていった。とはいえ、ワールド・ミュージックやジャズ、ポップ・コラージュを取り入れてきたミッチェルは、時代の先を行く、影響力のあるアーティストとして残り続けた。 この1998年に行われたスペシャル・コンサートは、『コート・アンド・スパーク』以降25年にわたって発表された作品に光をあてたものだ。22曲のうち、結局はミッチェルの強みとなった告白風の作品が大半を占めている。初期の曲「ビッグ・イエロー・タクシー」「この汽車のように」は当時の魅力そのままに、「アメリア」(『ヘジラ』より)や「セックス・キルズ」(『風のインディゴ』より)などからはミッチェルのさらに熟成された楽曲からは作品の持つ深淵さと鋭敏さが伝わってくる。ブライアン・ブレイド、マーク・アイシャム,ラリー・クライン、グレッグ・レイツといった、素晴らしいバンドが、ミッチェルが歌に塗るたくるジャズ、フォーク、ポップスといった色彩のパレットにうまくマッチする、しっかりとした構成を支える骨組みとなっている。円形のステージ、こじんまりした規模のオーディエンス、そしておおげさな演出を控えたことでパフォーマンスがさらに親近感あふれるものになった。おおげさな演出をおさえたかわりに、もう一つのキャリアである画家の作品をショー前に展示することで自由に楽しんでいる。 90年代後半の体調不良や生涯の喫煙のつけがまわり、ミッチェルの高い声域のほとんどは失われてしまった。ただ、低い声域には、鋭敏なサバイバーのアートにふさわしい豊潤さも加わっている。昔からのファンには曲の合間のおしゃべりに現れるあの疾風のような少女の笑い声も懐かしい。そして作曲家、プレイヤー(特に新しく素晴らしいエレキギターの演奏)としてミッチェルがいかに円熟したのかも味わえるはず。(Sam Sutherland, Amazon.com)
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